フィンスイマーの「リアルな声」を通して、よりたくさんの方にフィンスイマーの魅力をお届けする、フィンスイミングチャンネルの『Finswimmer's VOICE』第二弾!
前回は自身初の日本新記録を樹立し、日本の頂点に立った上野 愛美香選手と、ジュニア日本新記録を樹立した中村 康弘選手のショートインタビューをお送りいたしましたが、今回は日本を飛び出し、なんと、世界チャンピオンにインタビューをすることができました!
日本人として共感できる部分や海外のフィンスイミング事情に迫るお話もたくさんあり、大変興味深い内容となっています。なんといっても何 品莉選手の素敵な人柄がわかるインタビューとなりましたので、ぜひお楽しみください!
―アジアが誇る世界女王 何品莉選手 独占ロングインタビュー―
「夢は遠く見えても、行動を起こせば必ず叶うチャンスがある」
世界選手権優勝、アジア選手権4冠―。
台湾の主力選手として、そしてアジアを代表する実力者として、世界中から注目を集める何 品莉選手が、初めて日本のファンに向けて、その歩みを語ってくれました。
何 品莉(HE PINLI)
台湾・台中市出身。世界選手権優勝、アジア選手権4冠など数々のタイトルを持つフィンスイミング選手。主戦場は200mビーフィンで、高身長選手が多い欧州勢の中で、巧みな技術と正確な泳ぎで頂点に立った実力者。台湾チームの主力として国際大会で数々の活躍を見せ、今や世界からも注目されるアジアを代表するトップフィンスイマー。日本人選手からの愛称はリリーちゃん。
【日本初!独占インタビュー】
フィンスイミングとの出会い
「小学生の頃から、用具を扱う特別な才能があると言われていました」と何選手は当時を振り返ります。しかし、その後一度は競技から離れることに。
「このブランクは決して無駄ではありませんでした。水泳の基礎をしっかり築け、心身ともにリフレッシュできた時期。だからこそ、大学で本格的に再開してからも、今に至るまで競技への情熱を持ち続けられているんです」
そんな彼女にとって、フィンスイミングの魅力とは何なのでしょうか。
「水の中にいる時、スピード感を感じられるし、それをコントロールできる。フィンを使うのが得意なので、フィンスイミングの大会ではとても達成感があります。これが一番重要なことで、達成感があるからこそ続けていく原動力になっているんです!」
幼い頃からの才能を開花させ、一度は離れながらも、より強い想いで戻ってきた何選手。その後の競技人生は、世界の頂点を目指す壮大な挑戦となっていきます。
世界一の称号を手にした瞬間
世界選手権での優勝。それは何選手の人生を大きく変えた瞬間でした。
「世界選手権200mビーフィンのレースでは、自分のペースで泳ぐことができ、すべてが心地よく感じられて、まるで自分だけの世界に入り込んでいました。でも、タッチまで非常に混戦のレースだったので、勝ったことに気づいたのは、ゴール後に電光掲示板を見た時。思わずチームメイトを探して、『私、本当に1位なの?』って目で確認したくらい信じられない気持ちでした!!笑」
「私のような165cmのアジア人が、高身長のヨーロッパ勢の中で優勝できるなんて、夢にも思っていませんでした。多くの方々からお祝いの言葉をいただき、みんなが喜んでくれて。こんな特別な瞬間に、素晴らしい励ましと拍手をいただけて、本当に嬉しかったです。」と当時のことを思い出します。
0.02秒が育んだ深い絆
世界での活躍を重ねる中で、何選手の心に最も深く刻まれているレースがあります。それは2019年の煙台(中国)でのアジア選手権での出来事でした。
「アジア記録保持者である中国代表の張鐧鶴(zhang jhang he)選手との400mビーフィンでの勝負。彼女が3分49秒91で泳ぎ、私は3分49秒93でした。2人ともアジア新記録を1秒以上更新して、その差はわずか0.02秒。本当に息詰まる戦いでした」
結果は惜しくも2位。しかし、この大会が特別な友情の始まりとなりました。
「負けはしましたが、彼女は私に感謝してくれたんです。ライバルとしてお互いを高め合える良い競争ができ、二人の潜在能力を最大限に引き出せたことに。私たちはライバルでありながら友人として、お互いを支え合ってきました」その友情は、張選手の引退後も続いています。
「2023年のアジア選手権(プーケット・タイ開催)の前に、彼女のもとで練習をさせてもらいました。今度は彼女が私のコーチとなって、自身の持つアジア記録更新に向けて指導してくれたんです。アジア選手権での結果は最終的に0.05秒及ばなかったけれど、そこで私は真の友情を感じました。スポーツの世界での友情は本当に貴重なもので、勝負を超えた関係の中で、私は多くのことを学びました」
第二の故郷・日本との深い絆
競技を通じて多くの国を訪れてきた何選手。その中でも特別な思い入れがある国として、日本の名を挙げてくれました。
「日本は私の庭のような存在なんです!」
そう語る何選手。日本人選手との交流も深く、特に印象に残っているのは、来日時に拠点としているFin-D SSの練習での体験だといいます。
「日本の選手の多くは社会人。仕事を終えてからの練習なのに、その表情には疲れた様子がまったく見られないんです。フィンスイミングへの深い愛情と情熱を感じました」
特に印象深かったのは、2023年1月に参加したFin-D SSの高地トレーニング合宿でのエピソード。
「練習だけでなく、みんなでスキーにも行きました。選手もコーチも、本当に温かく迎えてくれて。その感動は言葉では表せないほどです」
また、日本のフィンスイミング文化からは多くの学びがあったといいます。
「日本では幅広い年齢層の方が参加していて、特に成人の選手が多いのが印象的でした。台湾ではマスターズの選手が少ないので、日本の普及の仕方は本当に素晴らしいと思います。」
母国・台湾でのフィンスイミングの現状と課題
台湾と日本のフィンスイミング界の違いについて質問したところ、大きな転換期を迎えていると、率直な思いを語ってくれました。
「近年は国際大会での成績が評価され、競技への支援体制も整いつつあります。全国大会では各県市に独自の報奨制度があり、若い選手たちの励みになっています」と何選手は語ります。
一方で、競技の普及という面では、まだ課題が残されているといいます。
「フィンスイミング専門のクラブはほとんどなく、大半が学校の水泳部が大会前に少し時間を取って練習する程度なんです。特にビーフィンが中心で、競技の多様性という点でもまだ伸びしろがあります」
また、選手のキャリアパスも大きな課題として挙げられるといいます。
「大学卒業後は、キャリアプランや仕事の関係で、多くの有望な選手が競技を諦めざるを得ない状況にあります。日本のように、社会人になっても続けられる環境づくりができれば、もっと多くの選手が長く競技に携われるはずです」
このあたりは日本と共通する課題や、見習いたい部分、日本の方が発展しているといえる部分もあると感じました。そのため、現場での国際交流を通してそれぞれの事例を深く情報交換しあうことでお互いに発展していくことができるのではないでしょうか。
次世代へ向けた新たな挑戦
台湾フィンスイミング界の未来について、何選手の視線は日本に向けられています。インタビューの中で何度も言及された日本の環境は、彼女にとって理想のモデルケースとなっているという。
「日本の素晴らしいところは、競技の裾野の広さです。特に社会人やマスターズ世代の活躍は、競技の未来を考える上で重要なヒントになります。台湾でも、より多くの世代が参加できる環境づくりを目指したいですね」
また、競技力向上への具体的なビジョンについては以下のように語ってくれました。
「短期・中期・長期的な計画が必要です。基礎的なトレーニング環境の整備はもちろん、エリートアスリートへの支援体制も重要。でも、それ以上に大切なのは、競技人口の裾野を広げることだと考えています」
フィンスイミングが繋ぐ世界との絆
ここ1-2年、世界を転戦としていた何選手。しかしながら、「以前の私は、実はかなり内向的な性格でした」といいます。2022年の世界選手権が、大きな転機となりました。
「2022年の世界選手権以前は、自分から話しかけることが苦手で、知り合いも少なかったんです。アメリカでワールドゲームズが終わった後、台湾チームの中で私ひとりだけが先にコロンビアに到着して、ひとりで食事をしていました。そんな時、突然、(ハンガリー代表の世界記録保持者)Adam Bukor選手が私を誘ってくれて、みんなと一緒に食事をしたり、夜景を見に行ったり、市内観光に連れて行ってくれました。その時に多くの国の選手と知り合い、新しい友達と会話をする勇気も持てるようになりました。」
フィンスイミングの大会には、特別な雰囲気があるといいます。
「まるでみんなが友達を作りに来ているような雰囲気があって。競技中は真剣勝負ですが、プールサイドでは和やかな雰囲気で、お互いに温かく応援し合っています。今では世界中にフィンスイミングの友達がいて、本当の家族のような絆を感じています」
フィンスイミングオープンin西日本大会への参加と止まらない挑戦!
今回、2024年12月8日に福岡にて開催される『2024フィンスイミングオープンin西日本』への参加を依頼したところ、快く受け入れてくれました!日本での大会は、何選手にとって特別な意味を持つ大会だといいます。
「実は、ずっと日本の大会に参加したいと思っていました。でも、いつも競技シーズンと重なってしまって機会がありませんでした。今回は私のオフシーズンと重なる貴重な機会なためとても楽しみにしています!」
「得意のビーフィンだけでなく、普段は泳がないモノフィン種目『サーフィス』と『アプニア』にもチャレンジします!普段はなかなか出場できない種目なので、新鮮な気持ちで挑戦できることが楽しみです。ただ、観客の皆さんには、やっぱり200mビーフィンを見ていただきたいですね・・・笑」
また、今後の目標やチャレンジしてみたいことについても聞いてみました。
「新しい年は、より速く泳げるように、自分自身への挑戦を続けていきたいです。また、台湾でのフィンスイミングの普及にも力を入れていきたいです。日本の普及状況を参考に、より多くの成人の方々にも参加していただけるようにしていきたいと考えています」
未来を見据えて―夢への挑戦を諦めないために
最後に、フィンスイミングに関わるすべての人々へ向けて、何選手は熱いメッセージを送ってくれました。
「フィンスイミングへの愛情があるからこそ、私たちはここに集まっています。競技を通じて出会えた縁を大切に、それぞれの目標に向かって前進していきましょう!夢は時に遠く感じるかもしれません。でも、行動を起こせば、必ず成功するチャンスはあります」
そして、最後にこう締めくくりました。
「努力は決して裏切りません。
If you have a lane, you have a chance! Work hard, play hard!」
165cmの小柄な体格を武器に変え、世界の頂点まで上り詰めた何品莉選手。彼女の挑戦と、フィンスイミング界を変えていこうとする情熱は、まだまだ続いていきます!
たくさんのインタビューに謙虚に、丁寧に答えてくれた何選手、ありがとうございました!皆さんもこれを機に日本人選手はもちろん、海外のフィンスイマーにもぜひ注目してみてはいかがでしょうか?
選手紹介・プロフィール
『Finswimmer's VOICE』では、選手の裏側もちょこっとご紹介!ご本人からいただいたお写真とともに、いくつかプライベートな質問にもお答えいただきました!
何 品莉(He Pinli)
1996年3月13日生まれ
台湾・台中市出身
【専門種目】ビーフィン
【主な戦績】
2022年 世界選手権コロンビア大会
・200mビーフィン 優勝
2023年 アジア選手権タイ大会
・100m/200m/400mビーフィン 優勝
・4×100mビーフィンリレー 優勝
2024年 世界選手権セルビア大会
・100mビーフィン 2位
【好きな日本の食べもの】
焼肉・すき焼き・ラーメン・お寿司などなどほとんど全部好き!!ですが、納豆だけは苦手です!涙
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【レース映像】
インタビューの中でも出てきた思い出深いレースを中心に、レース動画をご覧ください!
2019年アジア選手権女子400mビーフィン
0.02秒の勝負となったレース。
2022年世界選手権女子200mビーフィン
世界チャンピオンになったレース!
2022年ワールドゲームズ女子50mビーフィン
世界選手権2週間前に行われたワールドゲームズのレース!
2023年アジア選手権女子200mビーフィン
強力なライバルが最強のコーチとなって迎えたアジア新記録まで0.05秒に迫るレース!
フィンスイマーの声をお届けする『Finswimmer's VOICE』、第2弾は海を飛び越えてグローバルな声をお届けしましたがいかがでしたでしょうか?
今後も様々な「リアルな声」をお届けして、よりたくさんの方にフィンスイマーの魅力をお送りいたしますのでお見逃しなく!